『朱殷な月』男女不問

今夜も綺麗な月だ


私はいったいどれだけの時間(とき)を

ここで過ごしたのか

何度も 月が昇っては沈んだ



この広い城に 私は一人

ヴァンパイアである運命に何度問いかけただろう



いくら孤独でも

誰も私を死なせてくれない

親しくなった人々は みんな先に死んでいく


ただ喉の渇きに耐えるだけ


城の窓からみえる月が

そんな私を見て 哀れんでいるようだった




ある夜 一人の旅人が

一晩宿を貸してほしいとやってきた


優しそうな緑色の瞳をした青年だ

その肌は月に照らされ 青白く光る



なぜここへきた・・・



やめろ 放っておいてくれ・・

こっちへ来るな!私を見るな!

もう人間を襲いたくない

・・・っ 私に近づくなっ!!



(少しの間)




気がつくと私の横に

その青年は横たわっていた

血の匂いが充満し

私は驚くほど落ち着いていた


彼の首には私の噛み跡


まただ・・・

そう言いながらも満たされている自分



誰か私を この孤独から開放して

一人でいるのには もう耐えられそうにない

私の目から赤い涙が溢れた



それでも朝は来る

そして夜になり

また時間(とき)が進む


「不老不死」

腕をなくしても 撃たれても

再生する体


何をしたって私は死なない



今夜は月が赤い

人の血を食らった夜は

いつも朱殷(しゅあん)な色をしている




(完)

※ボイコネ投稿2021年5月31日