この静かな防波堤に
深夜の冷たい ひんやりとした色が写る
下に見える海は一定の黒色
その横にふんわりと明かりが灯った
漁師の小屋がある
小さい頃 私はそこで
父と貝殻を並べて遊んだ
私はそんな風景の中で育った
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(過去)
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ある日の夜
両親の言い争う声が1階から聞こえた
私は足音を忍ばせて
2階から階段を少しだけ降りた
しばらくすると
母が大きなボストンバッグを持ち
自分と私の服を詰め始めた
そして 母は言った
…『少しだけ違うところで暮らすよ』
私は意味が分からなかった
でも 母の顔を見たら何も言えなかった
子供ながらに そんな余裕の無い母を初めて見たからだ
今思えば その発した言葉が
母の精一杯だったのかもしれない
少しだけだから また帰ってくるんだなと
そのときは思った
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(現在)
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それから10年
私も大人になっていた
今も私は母と二人で暮らしている
どうしてあの時 家を出なければならなかったのか
私はまだ聞けずにいた
あの時の辛そうな母の顔が思い浮かぶと
口が動かなくなるからだ
私たちが住んでいるアパートは
父が住んでいる家からそう遠くはなかった
母が学校を変わらなくていいようにと 考えてくれたからだ
母には感謝している
女手一つで私を高校まで出してくれた
でも時々 父に会いたくなる
子供の頃なぜ離れなければならなかったのか
それは今も消えない
私は最近 あの漁師の小屋に
夜中になると こっそり訪れることがある
私が集めていた貝殻が いつのまにか増えていたからだ
誰が貝殻を増やしているのか すぐにわかった
父だ
私が貝殻を見て目を輝かせる姿を
父は誰よりも嬉しそうに眺めていたからだ
いつから貝殻を集めていてくれたのかは分からないけれど
綺麗に並べられた貝殻たちが
…『母さんには内緒だよ』
と 言っているようだった
私の中の父さんはあのときのままだから
『黙ってるよ父さん…』
でもいつかはちゃんと会いたい
母さんは少し痩せたの
私はまたいつか三人で暮らしたい
そして私の家族になる人にも会ってもらいたい
黒い海の波音を聞きながら
今日も私は小屋で増えた貝殻を数えた
真夜中の防波堤を眺めながら…
(完)
※()内は読まない。
※ボイコネ投稿2021年5月9日